そろそろ夕飯の準備が整う。

美緒はチラリと、壁の時計を見た。

午後6時。

ディアは、リュークが送り届けてくれるので心配ないだろう。

後は…。

エプロンをスルリと取って、美緒は学生寮を出る。

今日も綺麗な夕焼けだ。

遠くでカラスが鳴いている。

カラスが鳴くから帰ろう、なんて歌を、この天神地区の子供が歌っているのを初めて聞いた。

成程、と思ったものだ。

なのに、カラスが鳴いても帰ってこない同居人。

カラスでも理解できる帰宅時間を、あの獅子は分からないのだろうか。

…精霊がまだ密かに人間達と共存しているような土地だ。

比較的都会と言える天神地区にも、まだ開発されていない雑木林などが点々とある。

その雑木林から、色とりどりの、夕焼けとはまた違う光が立ち昇っているのが見えた。

美緒にも辛うじて見える程度の、精霊の発する弱い光。

まだ術式が未熟なのと、術者が疲れて消耗している事の表れだ。