「何を言うです」

豆柴は、呆れた顔をした。

ぬ、と。

豆柴の顔に憮然とする牡丹。

当初は武骨で無愛想な牡丹に振り回されている感の強かった豆柴が、最近はこういう生意気な態度をとるようになった。

どういう訳か夕城の男に関わる女達は、こういう肝の据わった女が多い。

古くは夕城 こはく、夕城 鬼龍、紫陽花に至るまで。

剣術しか知らず、女の扱いを心得ない不届き者の夕城男子を時に宥め、時に突き放し、時に包み込む、その扱い方を自然と覚えていくのだ。

「『虜囚が勝手にうろつくな、目の届く範囲にいろ』…そう言っていたのは他ならぬ牡丹です。勝手な事をのたまうのは勘弁してもらいたいです」

「ぬぬ」

おのれ虜囚の分際で、次期夕城宗主候補にそのような口を利くか。

斬るぞ、この座敷犬。

「それに」

フフン、と。

したり顔で笑う愛玩犬。

「紫陽花さんからは、夕食の手伝い免除の条件として、牡丹の面倒を見るように頼まれているです」

「何だと?」

僅かばかりに睨みを利かせる牡丹だが、豆柴些かも動じず。

「『牡丹は歩いて帰る体力も考慮せずに修行に没頭する事があるから、その時は介護してやってほしい』との事です。虜囚に介護までさせるとは、夕城流は人使いが荒いです」

豆柴、愛玩犬から介護犬に昇格。