自然と、1人での稽古が増えてきた牡丹。

その傍らには、1人の娘…いや、1匹の愛玩犬が付き纏う。

「豆柴」

牡丹は横目で、豆柴を見る。

手頃な石の上に座り、膝に両肘を載せて頬杖を抱える豆柴の姿。

「貴様何をしている。夕城邸に戻れ」

既に極意を習得するほどの腕前だ。

見学者がいる程度で、牡丹の修行の集中力は乱れはしない。

しかし、彼も人の子、他人を想う気持ちは小指の先程度はある。

毎日いつ切り上げるか分からない修行を待たせるのは、悪いかなと、多少なり思う所はあるのだ。

「母が、お前の夕食の手伝いを期待している。帰って手を貸してやれ」

紫陽花は、すっかり豆柴を気に入っていた。

今の夕城邸には女の家人は少ない。

エレナとも同居したかったのだが、エレナは残念ながら実家から天神学園に通っているので強制はできない。

そんな折に夕城邸に不法侵入してくれた豆柴は、恰好の餌食。

牡丹でなくても紫陽花が捕まえて、家で飼おうという発想になる。

すっかりペット扱いな豆柴。