買い物からの帰宅後、甲斐は部屋に炬燵の準備をする。

2人が入れる炬燵、その上には定番の蜜柑。

炬燵に入ったままでも、窓の外の雪が見えるように位置調整に余念がない。

暖かい部屋の中で、曇ってしまった窓ガラスを、甲斐が丹念に拭いて磨く。

「お正月なのに…何だか大晦日の大掃除みたい」

クスクス笑う美緒。

「窓から見える雪も主役ですからね」

拭き掃除を嫌がる事なく、寧ろ楽しそうに進める甲斐。

近代化が進んだものの、スマホやパソコン、テレビすらないヒノモトでは、娯楽が限りなく少なかった。

自然と、四季の流れや気候までもが、人々の娯楽に密接にかかわっていた。

言い換えれば、風流と言ってもいい。

何でもない、雪や雨、日差し、星や月に至るまで。

ヒノモトの人々は、それらを愉しむ術を心得ていた。