狐に摘ままれた気分。

或いは墓地だけに、幽霊でも見たか。

解せぬ気分のまま、柊を鞘に納める。

墓石を斬ったというのに、牡丹の刀は刃毀れひとつしていない。

斬鉄を完全に習得した証。

そして。

「……っ」

驚く。

夕城 翡翠と、将棋盤を挟んで並び立つ男の墓。

その墓石に、袈裟懸けの刀傷が刻まれていた。

あの男の胸板に生涯癒える事なく残っていたという、翡翠の刻んだ刀傷のように。