冷たい空気を裂くような、甲斐の正拳が打ち放たれる。

ボクシングで言うシャドー。

仮想している敵は、牡丹か、先輩か。

冬でも全身から湯気が立ち昇るような熱気だ。

その様子を、白雪とエレナは見ている。

「夕城や琴月にも、多少なり体術の心得がある者はいますが、違う武術体系ですねっ…重厚且つ流麗。先輩の中国拳法寄りの動きとは違う、空手のような動きですっ」

「ほう」

甲斐が手を止め、感心したようにエレナを見た。

「なかなか目端が利くな、エレナ殿。番犬の体術は手数ではなく、一撃必殺を旨とする。王城に賊が侵入した時、速やかに排除するのが目的だからな。時間をかけている訳にはいかない」

かたや先輩の体術は、嘗ての龍娘流中国拳法に近い。

中国大陸の各種流派の技を取り入れた総合中国拳法だ。