その、エレナ言う所の大正ミステリーな男は、校舎屋上の給水塔の上にいた。

座禅を組み、目を閉じる。

まだ朝早く、風は身を切るように冷たいというのに、黒道着のままで微動だにしない。

先輩はカッと目を見開くと、片膝立ちのまま拳を振り上げ、その拳を給水塔に…。

「…………………………壊しては駄目」

蚊の鳴くような声に、先輩は動きを止めた。

…高等部1年のクラスにいる筈の白雪が、いつの間にか先輩の眼下、給水塔の下に立っていた。

「…………………………給水塔を壊したら……学園内の水道が使えなくなる……おトイレの後で手が洗えない……」

白雪の言葉に返答する事もなく、先輩は給水塔から飛び降りた。

「あの赤道着の男、俺をどこぞの将軍家の倅と疑っているようだ」

「……」

先輩は自嘲する。

「俺など、毛並みの悪い雑種でしかないというのにな」