さすれば恋となる


緋衣呂君の声と同時に落とされたグラスが割れる音。

さらには抱きしめるようにして私をドアの前から避けさせた。



「 何してんだ詩乃!勝手に部屋から出るなっ 」

「 ご、ごめんなさ… 」



なんで怒ってるの緋衣呂君……



「 帰るぞ詩乃 」



え……



「 やだ、来たばかりだよ、なんで!」

「 この部屋はダメだ、送るから 」



何がダメかすらわからない。

そのまま手を掴まれ行くと玄関先で呼び止められた。



「 暁月…… いたのか… 」



その人は緋衣呂君と似た顔をした暁月と言う名の人で、緋衣呂君よりも色が白く冷たい風と同じような瞳をした人……



「 緋衣呂…… それは誰?」

「 誰でもない 」

「 だったらなんでいる?」

「 間違えて来ただけだろ、もう帰すから 」



間違えて?



この人はきっと緋衣呂君の兄か弟……

不思議なのは私との関わりを隠そうとしている緋衣呂君だ。


張りつめたような空気、緋衣呂君が私に小さな声で言った…



“走って帰るんだ、振り向かずに行け”



そうしなければいけない空気だと、何となく察した私はドアを開けて走ろうとした。



「 緋衣呂!」



ドスの利いた声に聞こえて私の足は止まった。