この手だけは、ぜったい離さない




「お前マジで授業でんの?1時間目、体育だぞ?いちいち体操着に着替えるの面倒くさくねぇ?」



廊下から荒井くんの声が聞こえてきた。



「まぁ確かに着替えるのは面倒くせぇけど俺は出るからな」



そのつぎは、洋くんの声も聞こえてくる。



体操着が入った袋を片手に、教室から出るとやっぱり廊下には荒井くんと洋くんが立ち話をしている姿があった。

まだ私の存在には気付いてないみたい。



「お前、最近ほんっとサボらなくなったよな。マジつまんねぇ」

「おい、真面目に頑張ってる人間にむかってつまんねぇって言うな」

「何が真面目だよ、気持ち悪ぃな。タバコもやめるとか言いやがってお前やっぱ頭おかしいわ」

「いや、この場合頭おかしいのはノリの方だからな?うん、俺から言わせればおかしいのはお前」



なんだとこの野郎、なんてお互いに睨み合いがはじまっちゃったけど…。

なんだかんだ、仲がいいんだよなぁ荒井くんと洋くんって。



「洋くんっ、荒井くんおはようっ」



ふたりがいつまでたっても私の存在に気付いてくれないから、荒井くんを睨む洋くんの前にわあっと飛び出してみた。



「うおぉ、びっくりした…」



なんて、ふたり揃って肩を揺らせたもんだからぷっと笑ってしまった。