この手だけは、ぜったい離さない




俺とノリが言い争いをしていたときに、事件はおこった。



『あれ、またケンカしてるのこのふたり?ほんっと仲良しだねぇ。あっ、それよりも宇月さん。早く更衣室に行こうよ』

『あっ、うん待って追野くん。洋くんたちも早く着替えなきゃ間にあわないよ』



俺に背を向けて、先に歩きだした追野のあとをあかりが追いかけていく。



『おいコラァっ!なんだよ今のはっ‼』

『いや、知らねぇし俺に怒鳴るなよ!つーか……そろそろ苦しいから手を離せ』

『あぁ……わりぃわりぃ』



ノリの胸ぐらから手を離した俺は、誰の目から見てもわかるくらい動揺していたと思う。



なんだ、あかりは追野のことが好きなのか?

いや、更衣室に行こうよって誘ったのは追野か?

じゃあ追野があかりのことを好きなのか⁉



『あの野郎……!あかりに馴れ馴れしくしやがって』



今後一切、あかりには近づけないようにしてやろうか。

追野のあとを追うように歩きだした俺の肩をノリが掴んだ。



『まぁまぁ落ち着けよ、洋。お前の気持ちもわかるけど、でもお前は宇月の彼氏じゃねーんだから。追野に怒る権利はねぇだろ』

『まぁ確かに俺は彼氏じゃねぇ。でも、あかりを誰にもとられたくねぇんだよ』

『そんなに好きなら、まずは告れよ。追野にキレるのは宇月と付き合ってからにしろって』