この手だけは、ぜったい離さない




『っていうか、お前タバコ持ってねぇの?1本やろうか?』



まだ半分も残っているタバコを灰皿に押しつけたタツヤは、俺がタバコをまったく吸っていないことに気づいたみたいだ。



まさか俺が禁煙するつもりだって、夢にも思ってなかったんだろうな。



『いや、いい。もう辞めるから』

『は?辞めるってなにを?タバコをか?』



タツヤだけじゃなくてカズも驚いて俺を見てくる。

だってほんの4時間前までは、校舎裏でタツヤとカズと3人でタバコを吸ってたんだからな。



『うん、そう。だって長生きしてぇじゃん。やっぱり健康がいちばんだよなって思って』



眉をしかめたカズは『はぁ?お前それ何の影響だよ』って笑いはじめた。



何の影響かって?

そんなの決まってんだろ。



『私はね、洋くんとは私たちがお爺ちゃんとお婆ちゃんになっても仲良しでいたいなって思ってるんだよ』



あかりにそう言われたら、もう辞める以外の選択肢ってないだろ。

俺だってあかりとは、爺さんと婆さんになってもずっと一緒にいたいって思ってんだからな。



……とは、ぜったいにこいつらには言いたくなかったから。

『そういえばタバコの害がやばいってテレビで見たのを思いだしたんだよ。だからお前らも今からタバコ辞めろ』

と、本当のことは最後まで言わなかった。