この手だけは、ぜったい離さない




私をまっすぐに見おろす洋くんの眼差しは、見たこともないくらい真剣で。

洋くんがとつぜん足を止めたから、私もつられるように足を止めた。



「どうしたの?」



もう何度となく一緒に歩いた歩道で、向かいあう私と洋くん。

時折、縁石の向こう側を車や自転車が横切って行くけど、洋くんは私からほんの少しも目を逸らさなかった。



「洋くん?」



真面目な顔をしちゃって、いったいどうしたんだろう?



「いや……やっぱりなんでもない」

「えっ、そうなの?何を言いかけたのかすごく気になるんだけど…」

「ごめん、何を話そうとしたか忘れたんだ」



私からぷいっと顔を背けた洋くんは、また学校の方を向いて歩きはじめた。

その足はやけに早足だった。



やけに真剣な表情をしていたから、何か重大な話しでもあるのかなって思ったけど。

忘れるくらいなら、そう大切な話しでもなかったのかな?



「えー?なにそれ、なんかモヤモヤする…」

「わりぃわりぃ、気にすんな」

「もう……洋くんったら!」



洋くんが「まぁそんなこともあるよ」と頭をかきながら笑うもんだから、私も笑いながら「そうだね」って頷いた。