この手だけは、ぜったい離さない




洋くんの家で夕飯かぁ。

洋くんにそっくりな2つ上のお姉ちゃんと、お父さんも帰ってきたらさらに賑やかになって楽しいだろうなぁ。



行きたいなぁって思ったけど、今日は急すぎるし夕飯はお母さんが作った2日目のカレーがあるからな。

またの機会にお邪魔できればいいなって思いながら「ありがとうございます。また今度お邪魔させてください」って丁寧に断っておいた。



「そっか、じゃあまた今度遊びにおいでね」



優しく笑いかけてくれたお母さんに頭を下げて、ぺろちゃんの頭をなでなでして。

「そろそろ行くか」って洋くんがバス停に向かって歩いて行くから、お母さんとぺろちゃんに手を振ってあとを追いかけた。



「うわ……バスさっき来たばっかじゃん。時刻表見とけばよかったな」

「ほんとだねぇ、次のバスは17時35分だって。今から1時間もあるよ」



それなら歩いて帰った方が早いな。

ゆっくり歩いても30分くらいあれば着くだろうし。



「じゃあ歩いて帰ることにするよ。洋くん、今日はぺろちゃんに会わせてくれてありがとうね」

「待てよ、それなら俺も一緒に行くから」

「ううん、ここまででいいよ。往復で1時間もかかるんだし」

「んなもん平気だっての。ほら、それかせよ。重たいんだろ?」



いつかの朝のように、私の手からキャリーバッグを奪い歩きはじめた洋くん。



「あっ……ありがとう」



慌ててその隣に並ぶと「ぜんぜんいーよ」って優しい笑顔が返してくれた。