この手だけは、ぜったい離さない





目に入るもののすべてが懐かしいなって思いながら見渡していると。

玄関の引き戸が開き、中から真っ白でふわふわな犬を両手に抱えた洋くんが出てきた。



洋くんは「ほらよ」って言って赤いリードを手に持ったまま、白い犬をそっと砂地におろした。



「わぁーっ、可愛い!この子があのときの子犬⁉大きくなったねぇ、面影ぜんぜんないよ!」



6年前はサッカーボールと変わらない大きさだったのになぁ。

今ではもう、私のちょうど膝くらいまで大きくなってるからびっくりした。



しゃがみこんで「おいで」って手を差し出してみると、白いフサフサした尻尾を振りながら近寄ってきてくれた。



「可愛いーっ!人懐っこいところだけは変わらないねっ!私のこと覚えてる?よしよし、いい子だねぇ」



頭をわしゃわしゃ撫でると、お返しにって私の手のひらをペロペロ舐めてくれたりなんかして。

もう可愛いのなんのって、思わず連れて帰りたくなっちゃった。



「うわぁ毛がすげぇ」って紺色のブレザーについた白い毛を両手で落としている洋くんに「この子の名前は?」って聞いてみた。



「ん?あぁ、ぺろだよ。手ばっかりペロペロ舐めてくるから、俺がぺろって名前をつけたんだ」

「ふふふっ、ペロペロ舐めてくるからぺろって…。洋くんってば単純だなぁ」

「……単純っていうな。笑いすぎだよ」