この手だけは、ぜったい離さない




バス停に着いたところですぐにバスが来て、数人の生徒のあとに乗りこんだ。



洋くんと隣同士で座るのは、これで何度目になるのかな。

肩と肩が触れ合うこの距離感にはやっぱり慣れなくて、ドキドキしてしまう。



洋くんって相変わらずいい匂い…。

この爽やかな香水の匂いが鼻を抜けるたびに、洋くんをより近くに感じてしまってドキドキが収まらなくなってくる…。



私は触れ合っている肩ばかりを意識してしまって。

恥ずかしくて足元を見るばかりで、なんだか挙動不審になってしまうけれど。



一方で洋くんは私みたいに恥ずかしがるようなこともなくて、平然とした様子で話しかけてきた。



「あかりが引っ越す1ヶ月くらい前のことだったかな?ホタル公園で子犬を3匹拾ったこと覚えてるか?」



足元に落としていた顔をあげると、目尻にシワを寄せて笑う洋くんと目があった。



「え?あぁっ、うんもちろん覚えてるよっ!黒い子と茶色の子と、白い子と3匹いたよね!」



懐かしいなぁ。

ダンボールに入れられた3匹の子犬を見つけたのは、2月の終わりごろ、まだ寒さがのこる日のことだ。

洋くんの自宅の目の前にあるホタル公園で、いつものように洋くんとブランコや滑り台で遊んでいたとき。



『あれ、なんか鳴き声が聞こえない?』



洋くんとブランコで靴とばしをしているときに、子犬の『くーんくーん』という小さな声に気づいたのは私だったんだよね。