この手だけは、ぜったい離さない




洋くんは私と違って恥ずかしがることもなくて、クラスメイトの視線を浴びながら堂々と話しはじめた。



「えーっと、仙崎洋。好きなことは、タケの兄貴に借りたバイクを乗り回す……」

と言いかけたところで、担任が勢い良く立ちあがって「なんだってー⁉お前誕生日まだだったよな!?免許とれるのは16歳からだぞ!」と遠くから洋くんを睨んだもんだから。



担任に睨まれていることに気付いた洋くんは、一瞬言葉を止めたあと。

「……っていう、妄想ごっこが好きかな、ははは」

なんて…咄嗟にそんな発言をしたから、バスの中がどっと笑いで満たされた。



洋くんの誕生日って、たしか6月だよね…。

無免許でバイクを乗り回すだなんて、そんなことダメに決まってるでしょ。



ブレザーのポケットからスマホをこっそりと取りだした私は、洋くんにすかさず『バイクなんかぜったいに乗ったらダメ』ってラインを送りつけてやった。

すると5分くらい経って、ブレザーのポケットにしまっていたスマホが振動する。



洋くんから返信が来たかな?

担任にバレないように隠れながらディスプレイを見てみる。



思ったとおり、洋くんから返信だ。



『大丈夫大丈夫。公道はぜったい走らねぇから』



って、そういう問題じゃないでしょ。

洋くんったら。



『公道じゃなくても、免許とってからにしてね。洋くんが事故したら悲しいよ』



とすぐさま送り返すと、また5分後に洋くんからきた返信は『心配してくれてありがと。じゃ控える』というものだった。