この手だけは、ぜったい離さない




「わかった。じゃあ洋くんが先に好きな人を教えてくれたら、私も教えてあげる」



我ながら……ずるい提案だなって思うけど。

洋くんが好きな人を教えてくれるわけがない、と知ったうえでの提案だもん。



私が「心に決めた子がいるんだよね?」とイジワルに笑いかければ、洋くんは「ぜったい思いだすなって言ったじゃん」とため息をつきながら肩を落とす。



「あかりにだけは言いたくねぇ」

「じゃあ私だって教えてあげないもんねーっ?」

「じゃあこうしよう、同時に言うってのは?」

「だめーっ、そんなの受け入れませんっ!ということで、この話しはもう終わりね!」



強引に会話を終わらせたところで「待って。わかった、教えてやる」と、私の右手首をいきなり掴んだ洋くんの顔は真剣そのものだった。



「え……洋くんの好きな人を教えてくれるの?」

「うん。だってあかりの好きな人が、どうしても知りたいから」



洋くんは私の手首をぎゅっと掴んだまま、足を止めた。

つられるようにして足を止めると、洋くんの熱の滲んだ強い眼差しの中に映っているのは私だけ。



「俺が好きなのは……」

「待って!洋くん……ちょっと待って」



洋くんの好きな人が知りたいはずなのに、急に知ってしまうことが怖くなった私は洋くんの言葉を遮った。