この手だけは、ぜったい離さない




誰かのことを思い浮かべながらって……洋くんのことを思い浮かべながら言ったんだけど。

だからって洋くんのことだよ、なんてもちろんのこと言えるはずがなくて…。



「さては好きな人がいるんだろ?」



胸がぎくり、と音をたてる。



いる……けど、それが洋くんだって言えないよ。

言えるわけがない。



答えに困ってしまって、もう笑うことしかできない私から洋くんは視線を逸らさない。



そんなとき、近辺でいちばん大きな駅のすぐ隣にあるアイスクリーム屋さんが視界にちらりと映った。



「あっ、洋くん着いたよアイスクリーム屋さんっ!早く行こうっ!」

「え?あー……うん」



答えに迷いに迷った私は咄嗟に話題を変えて、洋くんの鋭い眼差しから逃げるようにして駆けだした。



……ふぅ。

洋くんに好きな人がいるんだろ、って言われたときは心臓が一瞬止まってしまったよ。

でもなんとか、話題を逸らすことに成功したみたい。



「はぁぁっ……何味にしようかなぁ?イチゴ?やっぱりチョコ?ミント?バニラ?うぅ、悩む…」



そのまま走ってアイスクリーム屋さんに飛びこんだ私は、目を輝かせながらショーケースに顔を寄せた。