「……言ったな」

冷ややかに発せられた王子の言葉。

「あー。それ、絶対隼人に言っちゃあかんやつ」
ヨシタカさんが目元を抑えて苦笑いを浮かべる。
「だねえ」
唯人さんもまた、ちょっと困ったように笑っている。

「え、なに!? どれのこと!?」

きょろきょろとあたりを見回す私に、そっとヨシタカさんが近づいてきた。
「今更だけど、隼人ってさ、ビリヤードのことを穴に入れるだけって言われるの、大嫌いなんだ」

それを先に言って!
知ってたら絶対言わんかったから!!

「……やるぞ」

顎でくいとビリヤード台を指し示す。
明らかにお怒りの絶対零度の低音ボイス。

「じゃあ、バンキングからな」
「ば……ばんきんぐ?」

「隼人くん、普通に考えてビリヤード場に初めてきた人がバンキングなんて知ってるわけないし、ブレイクもできないでしょ。わかっててそういうことするのやめてくれる?」

キョトンとする私に対し、答えたのは唯人さんだった。

「あ、ごめんね。バンキングってのはどっちがブレイクをするか決めるためにやるものなんだけど、最初は結構難しいから。ここはルールを説明しながら隼人くんにブレイクをやってもらうね」
「は、はい」

「わかった? 隼人くん」

「はいはい。つーか、それでいいんだな?」

ちらりと横目で私を見たので、私は思わず首を縦にふる。

「……後悔しても知らねえぞ」

ため息交じりに王子は九つの球を中央にひし形に並べると、自らは白いボールをもってそこから離れる。
白い球をくるくると二度ほど台の上で回し、王子はキューを構えた。

――ブレイク。

どきどきする。
さっきの一瞬が脳裏によみがえる。

あれを、もう一度見えるんだ。

王子がゆっくりと腕を引くと、キューの先端と白い球の距離が開いて……。


瞬間、九つの球は緑色の台の上に一気に散らばっていったんだ。