思いもよらない言葉を突き付けられたのは、丁度日付が変わった頃だ。医者でもないのに、勝手に他人の死を宣告するなんて。そう思ったけど、この不思議な女に興味を持った。同じような日が続く毎日の中、いきなり訪れた非日常に。

 余命一ヶ月なんてどうでもいい。この女の人が何者なのかが、とても気になる。



「そうなんだ。で、ハルだっけ。あんたは何者?」

「えっ。普通、『まだ死にたくない』って騒がない? 今まで会った人間は、みんなそう言ったけど……」



 急にそわそわし始める所が怪しい。でも、自分の疑問を何より先に解決させたい。だから、ハルに教えた。ここに来てから誰にも打ち明けたことのない、私の本当の気持ちを。



「生きてる意味、分からないから。絵が描けない絵描きなんて、世間から見放されるんだよ。美術学校の同級生も、最終的には退学した私のことを笑ってたと思う。さっきあんたも言ってたもんね。あと一ヶ月の命なら、静かに暮らせればいいよ。眠るように死ねたら、言うことないかな」



 私の言葉を聞いたハルの瞳に、ゆらりと哀愁が宿る。なるほど。死に対して絶望したような反応をするなら、彼女は悪魔ではない。かと言って、天使でもないみたいだけど。



「……柘季ちゃん。あたしの任務、今決まったよ」

「は?」



 何を言ってるんだ、こいつは。目的があったから私の所に来たんじゃないのか。ハルは私の表情を見るなり「眉間に皺寄せないのーっ!」と、幼児を扱うような態度を取った。そして、かちんときた私を見透かしてか「あはっ、ごめんね」と苦笑する。謝るくらいなら最初からするな、と心で呟く。



「で、何なの。あんたの任務って」

「安心してよ。別に、鎌でも取り出して魂狩ろうってんじゃないから」



 女優のように優雅に笑ったハル。数時間ほど前にここへ降り立った時とは、憂いの深さが違っている。上手く隠してはいるけど、観察力が備わっている絵描きには分かる。私の何かが、彼女の悲しみを増やしてしまったらしい。尋ねようとしたけど、ハルの話が始まったので黙ることにする。