しかし今日は、
「まって、紅月!」
綺乃が追いかけてきた。
私は何も聞こえなかったふりをした。
「ねえ!紅月!!」
さっきよりも大きい綺乃の声に思わず立ち止まってしまった。
「紅月…!あの「綺乃ちゃん」
綺乃の声を遮った声。
振り返るとあの時助けた彼女だった。
「…なに?」
「転校するんだってね?」
「うん。」
「先輩に虐められて転校したくなっちゃった?」
彼女は綺乃を馬鹿にしたように笑った。
「ううん。仕事の関係。いじめられはしてたけどね。今度コケにしてあげるから大丈夫。」
「そう。あんたがいじめられた原因はあんたにあるのよ?あの時私を助けたから。変なあんたの中の正義感が邪魔したのよ。」
彼女は淡々と告げた。
「正義感…?」
綺乃は首をかしげる。
「そう。あなた、正義感が強いみたいね。正義感振りかざしてる奴はきらわれるっていうの、知ってるよね?あなたの場合、目をつけられていじめってね。笑っちゃうわね。」
「そんな…私は、あなたを助けるために…正義感なんて…」
「あるでしょう?ないといいたいならそれでもいいけど、うざがられるからやめた方がいいよ?正義感なんてね、自分を苦しめるだけなのよ。」
「苦しめるだけ…」
「馬鹿みたいだから正義感振りかざすの、やめた方がいいよ。」
彼女の冷たい目。
綺乃は言葉を失って、次の瞬間には目の色が変わっていた。