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蒼太 side

「千秋ー、トランプや――」
!!!!
病室に入ると千秋が床に倒れていた。
「千秋! おい千秋! しっかりしろ!」
ナースコールのボタンを押す。
「千秋! 千秋!」
「そ……う……た……。これ……大樹に……渡して……。それからこれは……お父さんとお母さんに……」
二通の手紙を千秋から受け取った。
そこへ看護士が到着。
「どうしましたか、稲田さん。今、先生が来ますからね。もう少し頑張って下さい」
そして、先生がやって来た。
「稲田さん、熱計りますね」
ピッピッピッピッ。
「四十度か……。呼吸も荒い……。稲田さん、設備の整った部屋に移しますね」
「先生、解熱剤は?」
「少し多めで点滴にしよう」
「わかりました。稲田さん、少しチクッとしますね」
「急いで部屋を移すぞ」
「はい」
先生や看護士がいなくなったあと、俺はただボーッと立ち尽くしていた。
八月三十日のことだった。





ガラス窓の向こう側に千秋が眠っている。熱が少し下がり、少し安定したようだ。
「蒼太君がいなかったら、重症化してたかも知れない。ありがとう……」
「いいえ……。ところでこれ、千秋からです」
一通の手紙を千秋のお父さんに渡した。
それを読んだ千秋のお父さんは泣いた。
「もし良かったら、俺も読んでいいですか?」
「ああ、いいとも」
そこには両親への感謝の言葉。そして、約束した光山の登山が果たせなくなってしまうことが書かれていた。
俺はもらい泣きしてしまった。涙は見せたくなかったが、泣いてしまった。
「俺が……俺が登ってきます……」
「蒼太君。君も病気なんだ無理をしてはいけないよ」
「大丈夫です。体を鍛えてから行きますので」
「そうは言っても……。許可……許可はきちんと取るようにね」
「わかってます」
九月二十日の千秋の誕生日に登ることに決めて、体力作りのトレーニングを始めた。





翌日。
千秋のスマホを使って大樹を呼び出した。
俺は待っている間に千秋の大樹への手紙をこっそり盗み見た。
そこには、好きです、と一言だけ書かれていた。
「大樹のことが好きなのな……」
コンコン。
ドアがノックされた。
「どうぞ」
「久しぶりだな、蒼太」
「こっちこそ」
「で、用って何?」
「これ、お前に」
大樹は千秋からの手紙を受け取る。
「まあ、開けてみろよ」
「!」
「お前、千秋のこと、どうなの?」
「どうって言われても……。この間と同じだけど……」
「そうか……」
「……」
「用件はそれだけだ」
「……」
「どうした?」
「千秋、死ぬのか?」
「それは俺にもわからない。ただ、今は安定している」
「……」
「とにかく、用件は済んだ。またな」
「ああ、またな……」
病室を出ていく大樹の姿にはさびしげな空気が漂っていた。


End