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花火大会。
夏期講習に通うことになった予備校をこの日は休んだ。俺だけではなく春や冬真その予備校を休んだ。
すでに現地には俺と春と冬真が集まっている。あとは夏美と翔太だ。夏美は翔太を迎えに行くと言って俺より一時間早く家を出た。友達に借りたという浴衣を着て出かけていった。
「遅いな」
「そうだね」
「オレ、電話してみる」
冬真はスマホを取りだし、夏美に電話をした。
冬真によると、あと少しで着くらしい。
約束の時間より三十分遅れての到着。
「遅いぞ、もう――」
俺の言葉は打ち上げられた花火の爆音に打ち消された。
次々に打ち上がる花火を俺達はただまっすぐ見上げた。
赤、青、緑など様々な色が夜空に舞った。
花火は三十分ほどで終わった。
「終わっちゃったね」
「そうだな」
「ねー、屋台、見に行こっ! あたし、リンゴ飴食べたい!」
「じゃ、行きますか。そうだ、翔太、夏美に奢ってやれば?」
「そんな、悪いよ」
「俺は別にかまわないよ」
「えっ、いいの?」
「良かったな、夏美!」
「大事に食べるよ」
リンゴ飴をそれぞれ買って食べた。そのあと、射的や金魚すくいをみんなでやった。
冬真は金魚を十匹すくって俺に自慢した。しかし、すくったあとは金魚を元に戻した。
夏美は金魚すくいに失敗し、おじさんに一匹だけサービスでもらっていた。大事に育てると言っているが、俺ん家には良男がいる。考え直せ、夏美。
俺の想いが通じたのか、夏美が金魚を返した。
「おじさん、やっぱりいいよ」
「本当にいいのかい?」
「家に猫がいるからね」
すると、翔太が言った。
「その金魚、もらっていい?」
「えっ、翔太、欲しいの?」
「夏美の金魚だからな」
「ふーん、そっか。おじさん、やっぱりその金魚ちょうだい!」
「お嬢ちゃんにはかなわないな」
翔太は大事そうに金魚を持った。
わたがしも買ったしラムネも買った。そろそろ帰る頃になった。
人混みの中を歩いていると、夏美が転びそうになり、いかにも遊んでそうな男とぶつかった。
「おい、姉ちゃん、いてえんだけど?」
男の仲間が俺達を囲む。計五人。こちらは男が二人。
「冬真、やれるか」
「まあ、やるしかないでしょ」
「でも、殴ったらダメだ。受け流したり避けろ。じゃないとあとあと面倒だ。翔太も大丈夫だよな」
「もちろん」
荷物を春と夏美に任せ、ファイティングポーズ。
「やんのか、このガキ!」
最初の一撃が飛んできた。俺はそれを避ける。
「なめるな!」
二発目。避ける。
「おらああ!」
「くらえ!」
冬真に三人が襲いかかった。
パシッ。
ドスッ。
一人のは受け止めたが、もう一人のは受け止められなかった。俺は腹に一撃をくらった。
「女に三人がかりとは、見過ごせねえなあ」
「大樹!」
三人目の相手をしてくれている冬真がやって来た。俺を支え、男達を睨み付ける。しばらく、男達は攻撃をするのを止めた。
そこに警官がやって来た。
「お前達、何やっている!」
「やべ! 逃げるぞ!」
男達は逃げていった。
警官に事情を訊かれ、詳しく答えた。おおごとにしないように必死に説得をしたところ、なんとか見逃してもらえた。
「大樹、ごめん、あたしのせいで……」
「気にするな。俺はなんとも思っていない」
「でも……」
「せっかくの思い出を汚したくない。楽しい思い出にしたい。だから……。だから笑え」
「大樹……」
俺は夏美に支えられながら家に帰った。
痛みをこらえつつベッドへ。気付けば眠りに落ちていた。