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夏美 side

ゴールデンウィークに突入し、あたしはおばさん家にやって来た。本当は来たくはないのかも知れない。でも、ありがとうを伝えたい。
家の前で考え事をしている。というか、不安だ。勝手に家を飛び出して、勝手に帰って来る。そんな人間は嫌われて当たり前だ……。
しばらくしたのち、勇気を出してドアを開ける。
ガチャ。
「ただいまー」
無音。
誰もいないのかな。
「ただいまー」
廊下を進み、居間へのドアを開けようとする。そこに声が聞こえてきた。
「夏美がいなくなってせいせいしたー」
「こら、そんなこと言うんじゃありません」
「でも、お母さんもそう思わない?」
「まあ、家計が少し楽にはなったかな」
「ほらー、やっぱりー」
長女が笑い、母親が叱る。
あたしは、開きかけたドアを閉めた。そして、廊下を歩いて戻り、玄関をそっと閉めた。
「あたしはここにいちゃいけないんだ……」
小雨がポツポツと降り始める。あたしは駆け出した。
さまよったあげくあの大きな木の所へやって来た。雨宿りにはちょうどいい。少し休んでいこう。このまま大樹の家に帰ったらからかわれるし。
あたしは、葉っぱの傘に守られながら、流れる雫を見ていた。


End





夜。
「ここにいたか」
「……」
「おばさん家に電話したら夏美はいないっていうし」
「……」
「心配したんだぞ」
「……ごめん」
大きな木で雨宿りをしているが、微妙に濡れて震えている気がした。
「ほら、夏美の分」
俺は、夏美の分の傘を渡す。
「さ、帰るぞ」
「……ごめんね。またしばらく、厄介になります」
「いいよ、別に。気にしてない。良男の事もあるし……。ありがとうは言えたのか?」
「ううん。ありがとうはお預け」
「そっか」
小雨が降る中、歩く俺達には、小さな間隔があった。