聞こえてないフリして耳は彼奴等の会話を盗み聞きだ。

「え、柳さん、また契約とってきたんですか!」

「うん。まぁ」

 黄色い声とは裏腹に彼の受け答えはとても簡素だ。

「大口の契約、これで今月、3件目じゃないですかぁ~すごいです、やっぱり、柳さんて」

「たまたまだし」


 もっと喜ばんかい、もっと。


 彼、柳 桂一は私たちの年代では出世頭で大口の契約をポンポンとってくる嫌味なヤローだ。スラッと通った鼻筋に切れ長の目に営業には珍しく真っ黒な短髪は爽やかときたもんだ。

 背も高くて足も長くてホントに嫌味なヤローだ。


 家柄も常人とはかけ離れて社長の息子ってんだから、気に入らない。



 フン、と鼻を鳴らした後、カタカタとキーボードを叩きながら、只管、仕事を片付けていく。

 じゃないと、帰れんし。