為次郎の面目を立てる為にも、この見合いを受けるしか出来なかった。
そうこうしているうちに、客間にお琴達、月廼屋の者達が通される。

「改めまして末弟の歳三です」

「お琴に御座います」

 歳三とお琴は二人で頭を下げ、目を合わせた。
ここらで見かけぬような絹のように白い肌、大きな瞳に長い睫毛。
多摩広しとはいえど、このようは息を呑むような美人はそうはいない。

「かねがね為次郎様より、歳三様のお話は伺っておりました」

お琴の発した声までもが美しく、まさに才色兼備の女性である。
 佐江と関係を持ってから、暇を見ては今まで女遊びをしてきた歳三だが、ここまでの上玉とは会った事がない。

 一度だけ為次郎に月廼屋へ連れて行かれた事があったが、その時のお琴も可愛いとは思ったが、さらに磨きがかかっていた。
 しばらく座談も続き、頃合いを見た頃に「えぇ、それでは若い者たちに…」と為次郎は言い各々、席を離れようとしたした時、

「お待ちください」

と、為次郎をはじめ、月廼屋の一同を歳三は引き止めた。

「素直に申し上げます。
私は今、誰かと所帯を持つつもりにはなれません。
良縁だとは思いますが、この天下の一大事に何か事をなして名を上げるまで、何かに縛られたくはないのです」

なんて事を言いはじめるんだ、と喜六は歳三に叱咤したが、歳三は立ち上がり襖を開けた。

「あそこに見える矢竹は、私がまだ十七の時に植えました。
将来、武士になる。
そういう想いが込められています。
私は、自分の気持ちに嘘はつきたくない」


「歳三殿のお気持ち大いに分かりました。
いやぁ、感服いたしました」

お琴の父、月廼屋仲助がそう言い手を叩いた。
歳三は頭を下げた。

「じつに惜しい話ですが、立派な大志を抱いている歳三殿を、そう言われてしまえば引き止めることは出来ません。
しかしどうかね、歳三殿。
このままでは琴の無垢な気持ちを傷付けてしまうやもしれん。
ここは一つ、許嫁という形をとらさせては頂けないだろうか」

仲助はそう言うと、為次郎は是非と頷いた。
それに関しては歳三も納得せざるを得なかった。
所帯を持たずに済むとなれば、歳三にとって好都合であり、お琴と歳三は許嫁となったのである。