「山南さん、悪いな取次までしてもらって」
「いいえ構いませんよ。
私は押しかけ門人のようなものですので、出来る事があれば喜んでやらさせて頂きたい」
山南は取次をし、陰ながら勇の様子を見守っていた。
「それにしても驚きました。
まさか若先生が、松井ツネさんと祝言を挙げるとは」
「ツネさんを知っているのか?」
「ええ、小野派一刀流を大久保道場で学んでいた時にご近所に住んでいらして、顔見知り程度ですが」
上品で野に咲いている花すらも踏んで歩けないような心優しい人だと山南は言った。
勇は五、六人と見合いをしたが全てを断り、決して美人とはいえないツネを娶った。
永倉のいう通り、損得勘定ではなくツネの内面に惚れたのだろう。
「失礼致します!」
来賓の者が来た。
歳三と山南は頭を下げ、挨拶をし顔を上げると、身の丈五尺(約150cm)ほどで華奢で可憐な少年は涼しげな顔で微笑んでいた。
大刀は二尺四寸五分(約73cm)ほどある長寸の打刀を腰に差しているが、あまりにも刀の長さが身の丈にあっていない。
「伊東道場で北辰一刀流を学んでいる藤堂平助と申します。
この度は伊東先生の代理として参りました。
えっと、本日は誠におめでとうございます」
背筋をビシッと伸ばし話す立ち振る舞いは、それこそ気品の高さを感じる。
(礼儀正しい奴だな)
歳三は素直にそう感じ取った。
「あーっ!やっぱり平助だ!」
「沖田さん!…あと山南さんじゃないですか!」
惣次郎は平助の声を聞き、駆け足でやって来た。
「二人とも知り合いなのか?」
「私は前に剣術の試合で立ち合った事があるんですよ」
えへへと笑いながら話す惣次郎に、平助も懐かしむように言った。
「沖田さんには手も足も出なかったなァ。
今の伊東道場に入る前に、於玉ケ池の玄武館で学んでいまして、その時に山南さんと…。
すみません、緊張して全く気付きませんでした」
そうはにかむ平助はまるで女のように可愛らしく見えた。