江戸湾に着くと、門人達が言っていたように甲冑を着た武士達が大勢集まっていた。
その姿はまるで戦国絵巻のような壮観であり、惣次郎はえらく興奮した。
歴史の好きな勝太も、これを見てぶるぶると身震いをしていた、が、歳三だけは違った。

(各藩がバラバラで、まるで統率がとれていない。
ただの寄せ集めの烏合の衆じゃ、いざって時に動けるはずがないだろう。
太平ボケの武士どもにゃ、呆れるぜ)

と、冷静に布陣の様子を見ていた。

 黒船は江戸湾口の浦賀に停まっていると聞き、歳三達は黒船を見に浦賀へと向かった。

四隻の船が、目に入ると動くことが出来なくなるほど驚いた。


「夷狄め…」


 勝太は黒船と、それから鳴り響く轟音を見聞きして怒りを露わにした。
 浦賀沖に投錨した艦隊は旗艦〝サスケハナ〟、〝ミシシッピ〟、〝サラトガ〟、〝プリマス〟の四隻からなっていた。
大砲は総てで七十三門あり、急な日本側からの襲撃を恐れ臨戦態勢をとりながら、上陸に備えて勝手に江戸湾の測量などを行い始めた。

 さらに、アメリカ独立記念日の祝砲や、号令や合図を目的として、湾内で数十発の空砲を発射していたのだ。


「まるで天子様のおわす我が国に訪れる態度ではない。
奴等に武士道というものは無いのか!
そのような脅しに屈する我らだと思うな。
俺らがこの国を守ってみせる」


「勝っちゃん、しかしあれを見ろ。
あの黒船が一斉に砲撃を開始したら、さっきの品川の布陣なんかひとたまりもないだろう」

歳三は空砲を鳴らす正体である艦砲を指差し、そう言った。
今、戦をすれば負けるだろう。

 歳三は襲いかかる遣る瀬無い怒りが胸の内に巻き起こった。