「島崎勝太です。よろしく」

 勝太はそう言うと、頬に笑窪(えくぼ)ができた。
人のいい優しい笑い方をする。


「……あぁ、よろしく」


 腰に差した刀が歳三の気を引いた。
武士の子、そう思うだけでも劣等感が引き寄せられた。

「もしよければ一つ手合わせ願いたい」


 歳三は勝太を見据えてそう言った。
石田村のバラガキは、喧嘩で負けた事がない。
剣術は自己流だが、毎日木剣を握ってきたのだ。

“武士”を打ち負かせば、きっと何かが変わるに違いない。

そう思った。


「歳三くん、剣術の経験は?」


「型にはまった事は嫌いなんでね、戦じゃ剣術戦法なんて役に立ちやしないのさ。
死んでしまったらお終いさ。
流派なんて関係なく自己流で上等だ」


勝太の問い掛けに歳三はそう応えると、勝太は面白そうに笑った。

「俺と戦ってどうする」

「俺は武士になる。
だから武士であるお前を打ち負かしゃ何かが変わる気がするんだ」


真っ直ぐな瞳は、勝太の胸を貫いた。


「なかなか威勢の良い若者だのう」


 近藤周助もまた和かな優しそうな表情を彦五郎に向けた。
彦五郎は申し訳なさそうに頭を下げ、四人は道場へと向かった。