「出来ん相談だ…!」

 帰路につく途中で、勇は奥歯を噛み締めて目を瞑った。
芹沢は今の壬生浪士組には、なくてはならない存在である。

会津藩も壬生浪士組の存続を願っているが、やはり問題は芹沢だ。

「一体、何故そんな有栖川宮様にお会いするなんて事を…」

「もともとあの人は水戸の出だ。
尊皇攘夷の思想は、誰よりも強い…」

三人は何も言わずに屯所へと帰っていった。

芹沢鴨を斬りたい者なんて、今や組内には誰一人としていない。
歳三は一人一人の顔を思い浮かべていた。

近藤勇。
いいや、この人には出来ねえ。
剣の迷いは死へと誘う。
何より、汚れ役は全て請け負うと歳三自身で決めている。
総大将の勇にやらせるやけにはいかない。

山南敬助。
なにより争い事を嫌う山南に、まさか上からの命令だと知っていてもやるはずがないだろう。
新見の割腹の介錯を行い、誰よりも気を病んだのは山南だ。
これ以上、心労を重ねて気を病まれてしまったら困る。

沖田総司。
弟分のように可愛がっている総司の手を汚したくはない。
ましてや同志の闇討ちなんてもってのほかである。
しかし芹沢ほどの豪傑に勝てる見込みがあるのは総司だ。

永倉新八。
神道無念流免許皆伝。なにより水戸一派は全員が神道無念流だ。
野口健司は百合本昇三にて共に学んできた同門である。
水戸一派と一番、仲の良いのは永倉だ。

斎藤一。
剣の腕前は総司、永倉と並ぶ。
何より義理堅い斎藤が同士討ちなどの汚れ仕事をやってくれるだろうか。

井上源三郎。
やはり信頼出来るのは源三郎である。
源三郎なら有無を言わせずに引き受けてくれるだろうが、勇が斬りたくないと言えば、源三郎も斬りたくはないだろう。

藤堂平助。
まだ年も若いし、平助は性格が真っ直ぐすぎる。

原田左之助。
強いて言うなら芹沢への不満を一番もっているのは左之助だ。
しかし左之助は槍の使い手、ましてやら打刀も少し長い剣を使っている。
室内での戦闘になるかもしれない。
長い刀は狭い場所では不利だ。
しかし新見の最期を見届けたのも、左之助だ。


(俺と左之助…。
二人であの人を斬れるのか…?)


芹沢の強さはよく知っている。
初めて挑む強敵との相手に、歳三は固唾を飲み込んだ。

「芹沢さんが!!」

総司が突然、ものすごい剣幕でやって来た。
何事か、と思い歳三は急いで八木邸へと向かった。