尊王攘夷派の天誅組に多額の軍資金を提供したという情報が、芹沢鴨の耳に入った。

天誅組は倒幕を目論む過激な尊皇攘夷派の集団で、脅されてのこととはいうが、天誅組に献金するとは幕府にたてつくということだ。

「おのれ、天誅組め。
新見を陥れた“討幕”の志士共め、許せん」


 芹沢は水戸学の思想で勤皇の想いは強かったが、新見が長州の間者と手を結び、歳三を河上に斬らせるようにしてしまったのは、自分の不甲斐なさと思想のせいだと感じていた。

芹沢はさっそく平山五郎、平間重助、野口健司を引き連れて大和屋へと向かった。

「精忠浪士組、御用改めである」

大和屋に対して芹沢は、壬生浪士組への活動資金の借用を申し入れた。
天誅組に出せる金があるのなら壬生浪士組にも出せるだろうということだったが、大和屋の主人は出払っていて不在である。

「えぇい、何度も言わせるな。
ワシ等に金を出せないと言うのか?」

「ほんまに申し訳ありません。
主人がいないもので、私どもではなんとも言えません」

「今すぐ決めるんじゃ。
お主は幕府の味方なのか、討幕を目論む逆賊の味方なのか…」

「主人がいないと…」

低頭平身頭を下げる番頭を見て、芹沢は「分かった、また来る」と言い隊に戻った。

(助かった…)

番頭は肩の荷を降ろしたように吐息を漏らした。

「誠忠浪士組ゆうのは、壬生浪士組やろ。
壬生狼、壬生狼いうから、もうあかん狂気に満ち溢れた人達だと思ってたわ」


 島田魁がぬれ縁に出て白洲をみると、屯所へと戻ってきた芹沢が大声で指揮をして、小屋から大砲を引き出させている最中だった。

(砲術の稽古は今日はねえはずだけどな…)

島田は予期せぬ胸騒ぎが働き、芹沢の後を追った。

歳三達は壬生相撲で出払っている。
砲術師範方の谷右京も、今頃は壬生相撲を堪能している頃であろう。