ならば、と言い芹沢は歳三の肩を先ほどよりも強く掴んだ。

「不甲斐ないワシの為を思って…、あいつはそこまで自分自身を追い込んだんだ。
奴は私利私欲のために動く男ではない」

必死に懇願する芹沢を見て、歳三は新見と自分を重ね合わせて話を聞いた。

「水戸天狗党で何も成し遂げられんかったワシに、ひと花咲かせようと…新見は自分の手を汚してくれたんだ。
不甲斐ないワシのせいで…、ワシが新見を追い込んでしまった」

近藤勇の為に、修羅の道を行く覚悟。
自分と新見が重なり合った。

「土方、お前さんなら分かるだろう。
近藤の為なら、鬼になる覚悟を決めたほどのお前なら…新見の気持ち」

歳三は唇を噛み締めた。


(分かるさ。 新見はこの人に賭けたのさ。
俺が勝っちゃんに賭けたように…。
俺だけじゃなく、皆、信じる者の為に命を賭けているって事ァ、重々承知だ)


だが、斬らねばならぬ。
ここで新見を許してしまえば、御蔵や荒木田のような長州の間者も許してしまう事になる。


「しかしやっている事は、同志を裏切った武士として最も恥ずべき行動だ。
そんな新見局長の行為を、“生まれながらの武士”のアンタが許せるはずがねえ」


新見の始末は芹沢自身がつけねばならん、そう思ったが、芹沢には弟のような新見を斬る事など到底出来やしなかった。


「土方ッ!……お前の武士道に新見が背いたというのなら、せめて最期は…最期は!」


ここまで言うと芹沢は子供のように涙を流し、両手を床について前かがみになり、まるで吐くような格好で泣いた。

「…頼むゥ……」

芹沢の気持ちは歳三にしっかりと届いた。


───せめて最期は武士らしく、切腹をさせてやってくれ。


(芹沢さん、アンタはやっぱり武士だ)


歳三は静かに部屋を出て行った。