「新見はワシと義兄弟の契りを交わした男。
あいつに限ってそんな事するわけあるまい!」

まるで自分の痛い何処かを、覗のぞきこまれているような辛さを芹沢は感じながらも、歳三に怒鳴りつけた。

「御蔵や荒木田は長州の間者です。
監察の調べによると、新見局長が河上に金子を渡し、河上彦斎と会っていた事は調べがついています」

芹沢は観念したように大きなため息を吐いた。
しばらく目を瞑り、息を大きく吸い、煙管を吸いまたため息と共に紫煙を吐いた。

「すべては、このワシがやらせたことだ」

その目は遥か彼方を見ているような、ぼんやりとした目でそう小さく言った。
煙草盆に吸い終わり灰と化した刻みタバコを落として視線を伏せた。

「嘘をつくのが下手だな。
アンタはそんなに回りくどい人間ではない」


「新見を斬るのか…土方」

「そうなるかもしれません」

あやつり人形が人形師の手を離れたように、身体中の力が抜けて行った。

「アンタが、いくらかばおうとしても、今回のことはかばいきれることではありません」

「ワシがやらせたというのは、あながち嘘でもないんだ」

芹沢は歳三のすぐ近くに勢いよく迫ってそう言い、歳三の肩を掴んだ。

「土方……。お前さんは近藤さんの為なら、どこまで出来る?」

芹沢はすがるような思いで、歳三にそう聞いた。
暴れ馬、乱暴狼藉、暴漢…。
様々な悪名を抱える芹沢だが、今の芹沢にはどれもその言葉は当てはまらない。
魂の抜けた生きた死体のように、芹沢という存在が儚く感じた。


「鬼にだってなれるさ」


歳三は静かにそう言った。