__壬生村。

 京相撲と大坂相撲達の相撲興行はいよいよ大詰めである。

一度、京相撲の小結の力士、揚ヶ霞が、大阪相撲の力士と揉め事を起こし殺害されるという事件も起こったが、興行は大成功を収めた。

相撲興行の締めとして小野川部屋の親方である小野川秀五郎が是非、壬生でも相撲興行を行いたいと持ちかけてきた。

「ほんまかいな、お相撲さんが壬生に来られるんですか?」

 八木源之丞の妻、雅は歳三から壬生での相撲興行の話を聞かされたら大いに喜んだ。
壬生浪士組が京にやって来て、散々な目に遭っている。

「えぇ、壬生村の方々にも是非楽しんで頂きたいと思いまして、小野川部屋の方々に話をしたところ、快諾してくださいました」

歳三はそう言うと、雅と源之丞は喜び合った。

歳三はそんな二人の様子を見て、微笑んだ。
芹沢の部屋を伺うと、相変わらず芹沢は酒盛りをしていたが、新見錦は依然として屯所に戻る気配はなかった。


「土方です。 失礼」

歳三は障子を開けると、煙管の煙が部屋をまるで雲のように白く立ち込めていた。

「何をしにきたんだ」

芹沢は一人寂しく酒を呑んでいた。
黒い風のように心身を吹き抜ける孤独が、表情に現れている。

「新見さん、今日もお戻りにはならないんですかね」

「ワシが知るわけなかろう…」

「先日のお話ですが、俺が河上彦斎という肥後の浪人に襲われた話をしたでしょう」

芹沢は眉間に電光を走らせた。

「何が言いたい…」

歳三は芹沢に酌をしながら、涼しげな目で芹沢を見た。

「その件に新見さんが関わっていると…」

「何を根拠に言っているんだ!」

芹沢はキッと殺気を孕んだ視線で歳三を睨みつけた。