一方、芹沢らは千本朱雀に来ていた。
もう日は暮れ、提灯の灯りだけが煌々とあたりを照らしていた。
「ここで愛次郎とあぐりが殺されたのか…」
芹沢は静かにそう言った。
藪の中は異様な不気味さを醸し出している。
愛次郎とあぐりの怨念が渦巻く千本朱雀の藪の中。
夏だというのに、なんとなく異様な寒気を感じ取った。
芹沢の脳裏には、ここで惨殺された愛次郎とあぐりの姿が浮かび、胸の奥から感情が溢れ出しそうになったが、グッと堪えて佐伯を見た。
「これに見覚えはあるか?」
手に持っていたのは島田が買い直したウニコウルの根付。
それを見て、佐伯は血の気の引いた顔をした。
「今日があいつらの初七日だ」
正確には八日前だが、翌朝に愛次郎の遺体が発見されたから、死の知らせを聞いたのは七日前なのである。
月明かりが芹沢の大刀をギラリと照らした。
佐伯は「待っておくれやす…!」と叫んだが、
「仲間の仇として佐伯又三郎、粛正致す」
と芹沢は言い、一太刀で佐伯は一刀両断された。
血糊がついた刀身を懐紙で拭くと、赤黒く染められた懐紙はひらひらと佐伯の死体の上へと落ちていった。
愛次郎とあぐりの無念がようやく果たせたかと思うと、芹沢の心の奥にあったもやもやとした不快な気持ちは、ほんの少しだけ和らいでいった。
──佐伯又三郎が何者かによって殺された。
長州の仕業だろうと隊士達は噂をしている。
「ねぇ、土方さん」
佐伯の死の真相は、歳三と総司のみが知っている。
「これで報われたのかなぁ。
愛次郎さんとアグリさん」
「さぁな。
でも芹沢が愛次郎を認めていたのは確かだったさ。
……そして佐伯を本当は斬りたくなかったってこともな」
「哀しい出来事ですね…」
二人は憂いに満ちていた。
愛次郎とあぐり、そして同じ場所で始末された佐伯又三郎の冥福をそっと祈って瞳を閉じた。
