そんな虎が京に来ているのだ。
好奇心旺盛な芹沢は、その虎を一目見ようと言い出したのである。
「お前ら全員ついてこい。
良いものをみさせてやる」
芹沢は佐々木愛次郎、平山五郎、平間重助、野口健司、そしてこの時べったりであった佐伯又三郎を引き連れて、烏丸通松原上ル東側の因幡薬師へと向かってみると、噂通り境内は人が溢れかえり見世物小屋には、虎だけではなく他にも色鮮やかな珍しい鳥がいたのだが、珍しすぎるのか見慣れないこの世のものとは思えない動物達を見て、妙な噂が立っていた。
一部の人々は
「鳥に色を塗っているだけでなないのか」
「虎の皮をかぶった人間ではないのか」
などと噂をしていた。
初めて見る動物に芹沢は、人々が言うように「一理あるな」と小声で呟いた。
謎を謎のまま残しておきたくない芹沢は
「俺を欺こうとした皮を被った奴を痛めつけて成敗してやる」
と虎が収監されている檻の方へと向かっていった。
もうこうなってしまったら、芹沢はなにかしでかすだろう。
佐々木愛次郎は警戒し、芹沢の動向をじっと見ていた。
芹沢らは料金も払わず見世物小屋に乗り込み、虎の前で大刀を抜いた。
しかし、噂に反して虎は本物である。
実際に虎と対峙し、その虎を睨み付ければ虎もただならぬ殺気を感じ取り、毛を逆立てて鋭い牙を剥き出しにし、グルルル…と、とても人間とは思えない腹の底へと伝わるのうな低い咆哮を鳴らすと、流石の芹沢も
「こいつは本物だよ」
と、苦笑いして刀を納めて、愛次郎は安堵の息を吐いた。