勇と源三郎以外の八人は芹沢を筆頭に出かけて、舟に乗り込むと川の清涼が夏の暑さを和らげてくれた。

「わぁ、気持ちいいですね!」

総司は子供のようにはしゃいだ、初めての舟遊びである。

「武士たるもの剣だけじゃない。
このように心にゆとりも持たねばな」

芹沢は意外にも風流な男であり、そう言うと満悦した表情で総司や永倉達七人は酒を酌み交わした。
しかし一人だけ、血色の悪い男がいた。
斎藤である。

その事に気が付いた野口健司は斎藤を気遣い、「斎藤さんどうしたのですか?」と訪ねてみると、斎藤は苦痛の面立ちを浮かべて「腹が痛いだけだだから、心配は無用だ」と短く答えたので、皆飲み続けるが、いよいよ様子が抜き差しならない状態になってきた。

「芹沢さん、もうこれ以上は…」

永倉は一向に良くならない斎藤の様子を見て、心配そうに言うと、

「なんだよ、だらしないのう」

と芹沢は呆れたように言うが、たしかに先程よりも斎藤の顔色は悪くなっており、船頭に淀川の鍋島河岸辺りで舟を止めるように命じた。

あまりにも腹痛が酷いようで、どこか休める所へ移動しようと歩き始めたのである。