松坂屋に奉公してから半年程経ったある日、歳三は番頭に呼びつけられた。

「これはどういうことだい?」

番頭は、目の前の煙草盆に顎をしゃくってみせた。
歳三が後で掃除をしようと思っていたものだ。

「他の掃除をしているので、終わったらやろうとしていました」

「阿呆。自分の仕事を忘れるようじゃ、立派な商人にはなれないぞ」

「だから忘れてたんじゃなく、他の掃除を…」

歳三は叩き落とされた雀蜂の蜂の巣のようにカッとなり怒った。
しかし番頭が手に持っていた煙管(キセル)で歳三の頭をゴツンと叩いたのだ。

「言い訳する前に謝るのが先でしょうが」

我慢の限界であった。五臓六腑(ごぞうろっぷ)が煮え繰り返り歳三は激昂した。


「何しやがるんでい!」


「なんだ、その口の聞き方は!」

番頭も怒り、今度は拳で歳三の頭を殴った。