殿内の思惑は隊士を殿内一派に吸収し、己が総帥(そうすい)になるという事である。

こうして浪士組は隊士が一人、また一人と増え、近藤勇、土方歳三、山南敬助、沖田総司、永倉新八、井上源三郎、藤堂平助、原田左之助。

芹沢鴨、新見錦、平山五郎、平間重助、野口健司。

谷右京、殿内義雄、家里次郎、粕谷新五郎、根岸友山、遠藤丈庵、清水吾一、鈴木長蔵、神代仁之助。

そして京に来てから参加した斎藤一、佐伯又三郎となった。

谷右京は六十三歳と一番高齢であり、勇も右京の決して傲らない姿を慕っていた。
なんせあの侠客(きょうかく)の祐天仙之助を手懐けた男でもある。
浪士組にとって父のような存在であり、分け隔てなく愛を持って人と接し、善し悪しをしっかりと見極める人格者である。

歳三はもし派閥があるとすれば、威張っている殿内ではなく、勇、芹沢、谷右京の三人だと思っている程だ。

砲術に長けているという右京の戦力は喉から手が出るほど今後に重要視していた。

しかし威張り狂う殿内は、右京の事をジジイ呼ばわりし、五十三歳の根岸友山でさえもそれに近い扱いを受けていた。

(殿内義雄、邪魔くさい奴だな)

誰もがそう思っていた。
家里次郎もそんな殿内に、態度を改めないと身を滅ぼすと釘を刺していたがそんな事、我が知らぬ顔でやめる事をしなかった。

 清河の暗殺計画は失敗に終わったが、佐々木只三郎は歳三との約束通り会津藩に掛け合ってくれたらしい。

清河暗殺計画の翌日、三月十日の事である。
只三郎は歳三達に浪士組の京都残留について嘆願書を出すようにと伝えた。

勇は大家でもある八木源之丞に頼み事を申し付けに行った。

「源之丞さん、誠に恥ずかしいお話ですが」

「どうしたんどすか?
金子ばかりは用意出来まへんで」

勇は申し訳なさそうに顔を赤らめた。

「いえいえ、無心に来た訳ではありません。
紋付の羽織を貸して頂きたくて…」

「なんや、祝言でもあるんかいな?」

「いえ、実は黒谷本陣に招致されまして、この様な姿では…」

「おや、たまげた。
黒谷はんにお呼ばれされとったんなら喜んでお貸し致しますわ」

勇達の身形はボロボロの着物で、とてもこれから支えるであろう殿に逢えるような格好ではない。

町を歩けば
「あん人ら、江戸から来た壬生に停泊しとる浪士組っちゅう者やで」

「壬生浪(みぶろ)かいな」

「そんな格好いいモンやないわ。
身ボロや身ボロ」

と揶揄されていたぐらいである。