本題に入る前に、この会話は他の者にも聞こえていたようで、少しギクシャクしたような雰囲気になった。

「俺は武士になれて子供みたいに本当は、はしゃぎたいんだ。
でも恥ずかしいし、らしくないから強がってる。
本当は一番浮かれてるのは俺なんだぜ。勝っちゃん」

そう言ったのは、歳三の背後にこっそりと隠れて本人の真似をしている総司であった。
歳三は顔を赤らめた。
最初は照れ笑いのような赤らめ方だったが、次第にこんこんと怒りが込み上げてきた。

「総司!」

「だってそうでしょ。
もっと素直になればいいのに、不器用なんだから」

総司はニタァっと笑った。
ギクシャクとした空気は一気に晴れ渡り、一同は大笑いをする。

(あぁ、そうさ。
総司の言う通り、俺は嬉しいのさ)

歳三は少しだけ微笑んだが、すぐに真顔に戻った。

「そんな事より俺は決めたぜ」

勇のみに話すつもりだったが、歳三は一同を見渡した。

「何をですか?」

「清河を斬る」

今度はぽかりと口を開いたまま顔が空間に凍りついたようになった。
清河八郎を斬る、歳三はハッキリとそう言った。

「何故ですか?」

山南はまるで焼け石に触るように恐々と歳三に訊いた。

「あいつは、御上(おかみ)にとって悪い芽だ。
悪い芽ってえのは、早くに摘んどかにゃいけねえ」

「確かに俺も気に入らんな。
将軍警固と言っておきながら、公方様が上洛する前に帰ろうとするなんざ、どういうつもりか分からん」

血の気の多い永倉も歳三の意見に賛成した。

「斬っちまえばいいじゃねえか。
よく分かんねえけど、悪い奴には正義の味方の制裁ってえのも必要だろ」

左之助はそう言い、永倉の肩を組んだ。
それじゃ決まりだ。と歳三は言った。