「少し中の様子を見てきます」
山南は寺院の中へ入る事が出来ない状況に痺れを切らし、山岡鉄太郎に話を聞きに中へと入っていった。
「おぉ、あのお方は粕谷新五郎(かすやしんごろう)さんだ」
永倉は驚いたようにそう言う。
「知り合いですか?」
「彼もまた、野口達と同じ水戸の出身で、荒木又右衛門の再来と言われている男です」
年の頃なら四十ほどであろう。
一人で黙想をし、精神を統一している。
「たしか前まで幽閉されていたと聞いたのだが」
永倉は情報通であった。
総司はからかうように、粕谷新五郎の真似をした。
「全くお前は、子供気分なんだから」
勇はそう総司に言うと、総司は舌を出してけろっと笑った。
「だって、荒木又右衛門って強いんでしょ?
真似すれば強くなれるかと思って」
歳三は総司の頭をパシッと叩いた。
「痛、試合ってみたいなぁ。
ねぇねぇ、荒木又右衛門と宮本武蔵ってどっちが強いのかな?」
相変わらずの調子で総司はそう言うと、やれやれと言う顔で歳三は「しゃんとしろ」と窘めた。
「俺達は武士になるんだ。
いつまでま子供気分じゃいけねえぜ」
総司はつまらなそうに、はーいと気の抜けた返事をした。
山南が戻ってきた。
「ごたついているようですね。
なにやら松平上総介様が浪士組をおりたらしいです」
「一体何故?」
「さぁ、私にも詳しいことは…」
歳三は少しだけ苛つきを見せていた。
全くもって体制がとれていない。
これではまるで、黒船を見に行った時の品川の数だけを集めただけの役に立たない布陣と同じだ。
「ただでさえ烏合の衆の集まりで、上の者もそんなんで大丈夫なのか?」
歳三は不満そうにそう言い、ため息を吐いた。
「どうやら始まるみたいですよ」
平助は騒めきが大きくなった会場を覗こうとしたが、背が低い為に何も見えない。
清河八郎と山岡鉄太郎が出てきて、その隣には松平上総介の代理となったであろう鵜殿鳩翁(うどのきゅうおう)達が何かを話しているが、全くもって聞こえなかった。
「せっかく来たのに聞こえないんじゃ、意味ねえじゃん」
「おそらく支度金五十両の話は無理でしょうね」
山南はそう言うと、左之助はげんなりとした顔を見せた。
「左之助は金目当てで来たのか」
源三郎はそう言うと、左之助はため息を吐いた。
「だってよ、五十両だぜ?
よーうやく、ひもじい思いせずに済むと思ったのに」
「俺達は上様をお守りする為に行くんだ。
例え五十両が五十文に変わろうと、俺は行くぞ」
勇の一言に歳三は頷いた。
念願の夢が叶うのだ、金なんていらない。
期待に胸躍らされ歳三は西の空を見つめた。
(楽しみだぜ、京)