紅組の三人の義士。
歳三、山南、左之助は次々と白組を倒していく。
「永倉くんと藤堂くんもそうだが、あの三人もなかなかやりますね」
源三郎は感心したようにそう言うと、勇は頷いた。
「こりゃ、すげえな」
周斎は食い入るように見入っていた。
彦五郎を前にし、義兄弟対決となると思ったが歳三は義兄から一本を取る事に躊躇(ためら)っていた。
(彦義兄の面目も立ててやらねえとな)
歳三はそう思い、あえて隙を見せた。
その刹那、彦五郎は歳三に打ち込んだが、歳三の土器が割られることは無かった。
左之助の“槍”が彦五郎の土器を割っていたのだ。
「戦じゃなぁ、躊躇ったほうが負けなんだよ」
先程の嬉々とした子供のような表情を左之助はしていなかった。
闘う男の、戦士の目である。
紅組は勝利を収めたのだが、歳三は左之助の目が暫く頭から離れなかった。
(俺もまだまだ甘いんだな)
歳三は唇を噛み締めた。
永倉、平助、左之助は土器を括り付けている鉢巻を取り、本陣へと戻ってしまえば、昨日の敵は今日の友。
「いやぁ、お強い。
改めまして私は神道無念流免許皆伝、永倉新八」
永倉は感心したように左之助に声をかけた。
「僕は北辰一刀流目録の藤堂平助です」
「それがしは種田宝蔵院流免許皆伝の原田左之助でござる。
以後お見知り置きを」
まるで歌舞伎の演武のような動きを見せながら、冗談っぽく左之助は言うと、三人は笑いあった。
「あんたらも強いよ。 新八に平助!
我武者羅な戦い方しやがるからガム新だな。
そして平助は突っ込んでくるから魁先生だ。
俺はな、あだ名をつける名人なんだ!」
左之助は二人の肩を組み、愉快に笑った。
三試合目は、歳三は紅組で、山南は白組に助っ人として行き、総攻撃を仕掛けた。
山南の妙案により、白組の者達によって、歳三は取り押さえられ土器を割られてしまう。
「卑怯じゃねえか!」
歳三はそう喚いたが、山南は「喧嘩に綺麗も汚いも無いんでしょう」と笑った。
自分で言った言葉をそのまま引用されて、歳三は悔しそうに奥歯を噛み締めた。
紅組は山南の指揮のもとバタバタとやられていき、残兵が居なくなったのを見て各々、自分の土器を割って〝自決〟した。
山南は試合の締めくくりは、総大将同士戦わせようと門人達に言ったのである。
異議はなかった。
紅組、萩原糺と白組、佐藤彦五郎の一騎打ちである。
彦五郎の痛快な一打が決まり、白組二本、紅組一本。
白組の勝利となった。
「それまでっ!」
勇の野太い声と同時に試合終了を告げる太鼓の音が府中にあふれた。
