「美麗ちゃん!」
 
 登校中の静かな朝に、自然的ではなく人工的な雑音。できるだけ他人を装うにも、名指しなので無理に等しい。
 仕方なしに不機嫌さを最大限にアピールしながら振り返れば、にこにこと爽やかに笑うショートヘアの同級生が。

「おはよう!いやぁ、いい天気だな」
「あんたのせいで私の気分は嵐だよ」
「あっはは。美麗ちゃん冗談きついぜ!」

 冗談ではなく心からの言葉なのだが、まぁ彼女にいくら言っても仕方ないので諦めた。
 彼女は黒崎実花。私と同じ1-Bのクラスメイト。中学から同じで、親友というほどではないが、知人というほども浅くない仲だ。
 喋り方からもわかるようにとても男勝り。髪は短く、制服じゃなければ男と見間違えるような顔つき。そしてすらりとした背。これで髪の毛が長くておしとやかだったらモテただろう。全く残念な美人だ。
 
 あぁ、彼女の名誉のために記しておくが、決して男から不人気なわけではない。無論女からもだ。明るくて優しい彼女の性格は、老若男女問わず人気がある。だがしかし、彼女のことをLoveで見る人間はいない。みんなLikeなのだ。そういう意味で私は、彼女が残念な美人だと思ったわけである。

「そういえば美麗ちゃん、もう部活決めた?」
「部活?まだだけど…。実花は?」
「僕はバスケ部って決めてる。そもそもこの高校の志願理由が『バスケ部に入りたい』だからな」
「あ、そうだったね」
 
 この四葉高校は確かにバスケ部の強さで有名になっている。全国大会で2年連続1位になっていることもあり、最近は低迷だった入学者数が急激に増加したのは、そんなバスケ部のおかげだったというわけだ。

「あ、チャイムが!急ぐぞ美麗ちゃん!」
「わ、わかったから引っ張らないで!!」

 彼女が現れてからというものの、静かで平和な朝がなかなか過ごせない。