ジョンをロビーのソファーに待たせ、私はオフィスへと急いで向かった。

 オフィスのドアを開けるなり、カイトの声が響いた。


「それでね、朝起きたら、パパがリサの部屋から出てきたんだよ。パパもお泊りしたんだって!」


 私は一気に顔が熱くなったが、次の瞬間、血の気が引いた。


 カイトの周りには、晴香、佳代子、亜美が揃っている。

 晴香はまだしも、何故、育休地中の佳代子まで?



「佳代子! なにやっているのよ!」

 私は、思わず声を上げてしまった。


「なにって? 理紗がお土産を取に来いって言ったんでしょ?」

 佳代子は剥れて言った。


 そうだった、昼休みに取りに来てって言ってあったのだ。


 でも、そんな事はどうでもいい。

 とにかく、カイトの話を辞めさせなくては!


「カイト、パパが待っているわ。行こう!」


「えー。今、面白いところなのに」

 亜美が、ニヤニヤしながら私を見た。


 仕事している他の社員達も、明らかにニヤニヤしている。



「それで、パパなんて言ったの? 理紗はどんな感じだった?」

 晴香が、笑顔をカイトに向けた。

 マズイ! カイトは、晴香の笑顔に、完璧に誘導されている。


「ちょっと、仕事中でしょ!」

 私は、じろっと三人を睨んだ。


「今まで、サボっていたあんたが、何偉そうな事言ってんのよ!」

 佳代子が呆れたように言った。


「きゅ、急用だったんだから仕方ないでしょ!」

 私は早口で、怒って言ったが、三人はニヤニヤしたままだ……



 私は、とにかく、この場からカイトを連れ出さなければと、カイトを抱きかかえた。


「おー、里中!」

 部長の声が、背中の後ろで聞こえた。


「部長! すみません、すぐ戻ります」


「いや~ 午後、休暇届が出ているぞ! 色々決まったら、教えろ。出来る事は力になるから」

 部長は休暇届の紙をヒラヒラとさせながら、ニヤリと私を見た。


「部長……」


「いや~ 里中の子だとはね?」


「ちょっと……」

 私は、なんて答えて言いか分からず、ただただ顔が熱くなるばかりだ。


「だって、学校までお迎え行くなんてね…… 普通の関係じゃないわよね」

 若い社員の声が聞こえてきた。