「勿論、断ったよ。カイトの事だけじゃないからね。僕自身に、彼女を好きという気持ちが無いから……」


「ほっ……」


思わず、安堵の息がもれ、彼がクスっと笑った。


「安心した?」


「えっ、ま、まあ」


私は曖昧に答え、目の前のコーヒーを一口飲み、気持ちを落ち着かせた。


「でも、彼女は凄く怒ってね。私と結婚しなければ、仕事に影響するとね。そして、彼女をタクシーに乗せて追い返そうとしたから…… まさか、リサが居るなんて……」


ジョンは、頭を抱え悔しそうに目を固く瞑った。


「私…… 凄くショックで…… 逃げるしか出来なくて…… ごめんない。でも、私があの場に居たとか、居ないとかじゃなくて、嫌なんです。ああいうのは……」

 自分でも、子供みたいな事を言っているのは分かっているが、言わずにはいられなかった。

 しかし、いままで、こんな気持ちを誰かに口にした事があっただろうか? 


 でも、私の胸のもやもやはこれだったんだ。



「ごめん…… そうだよね……」



「私も、話も聞かずに逃げてしまった事は反省しています」


 私は、私は申し訳ないと思い言ったのだが……


「そうだよ! いくらなんでも日本に帰られちゃ。こっちは、リサの住所も連絡先もわからない、僕がどれだけ必死だったかわかる? こんな事なら、朝までリサの部屋の前にいれば良かったって、どれだけ後悔したか……」

 ジョンは、吐き出すように一気に捲し立てた。


 なんだか、逃げて来た私ばかりが悪い言い方だ……


「だから、謝ってるじゃないですか? でも、日本に帰るくらい、ショックな事だったんです。
 もとはと言えば、人前で大胆にあんな事をした、そっちが原因なんですから!」


 私も思わず、捲し立ててしまった。