半時ほどのその演奏に
居合わせた人々は目を閉じ聞き入るもの
心奪われ何者かと国王に尋ねる者もいた。
演奏が終わり楽師が身を引いた後、宴はお開きとなったためアイカは必死で長を追いかけ楽師について尋ねたが

身元は明かさないと約束してあるのだ。

と教えてはもらえなかった。
その代わり色々な街や郷を旅している流浪の楽師であると教えてくれた。
「この宴の後、時を置かずに次の国へと向かう。この国の街はここで最後だから。
……旅語りを生業にしている。と言っておられたぞ」
旅語りの楽師…。
それを聞いたアイカは急いで旅支度をした。
旅支度といっても拙いものだが、肩掛け袋の中に国王にもらった食べ物、使わないからと譲ってくれた水筒と水と毛布を詰め込んだだけだ。
河原で拾ったマントを身につけ
隣国、憂いの国クイダードへ旅立った。