そして令嬢達は、レイモンド様には捨てられた子猫のような視線を、私には射るような視線を投げて退場して行くのですが、皆さんお願いですからもっとごねて、もしくは置いて行かないでぇぇ! 

「ほほ侯爵様、お話しは終わりましたでしょう、どうされましたの? レースに出場なさいますのよね、こんな所でもたもたしていては、出られなくなってしまいますわ。さっ、早く行かないと」

散歩中の犬が、ぐいぐいリードを引っ張るように、私もレイモンド様の腕をぐぐっと引っ張ってアピール。
それから私逃げませんから、お手々をお放しになってプリーズよ。

願い虚しくレイモンド様は一歩も動く気配無く、ただ不機嫌に口を動かしました。

「エセル、僕の事が要らないだとっ!? 僕を怒らせるなよ! 君が何と言おうと、僕は絶対に君と結婚するからな!!」

って、またそこ戻るの!?

「絶対にイヤですっ!」

一度言った事は曲げない! みたいな信念で今まで生きてこられたのでしょうし、とても立派なお心がけですが、それを今回押し通されても困るんですって! 

私の言葉にレイモンド様は、顎を上げて尊大且つ冷ややかーな視線で見下ろしてきますが、私も顎を上げ、語気を強めます!

「侯爵様、きっぱり何度もお断りした筈です。話しを蒸し返さないで下さい! わたくしハッキリ言ってあなたの事が大っ嫌いなんです」

透き通るように美しいサファイアブルーが、一瞬で曇ったように見えました。
本当は苦手なだけなのに、ついついヒートアップして酷い事を言ってしまいました。