玄関のドアが開いた。二階に居てもわかる。私以外居ない静かな家に、違う音が混ざる。
 コンコン、と私の居る部屋のドアがノックされる。

「翼、居るよね? 入るよ」

 返事を待たずして、扉が開く。開けた本人は、ベッドの上に居る私をちらりと見た。

「……あのさ、俺がわざわざ毎日来てやってんだからさ、パジャマくらい着替えなよ」
「うるさい。別に頼んで来て貰ってるわけじゃないし、余計なお世話」
「残念ながら俺はさゆりさんに頼まれて来てるんだよ、余計な手間かけてな」
「来たくないなら断れば?」
「悪いけど、俺さゆりさんから小遣い貰ってっから無理」
「あっそ」

 さゆりというのは私の母だ。こいつが何かと慕っている。私の前では笑顔なんて滅多に見せないくせに、母の前だといつもニコニコしている。
 顔を合わせれば憎まれ口しか叩かない。

「蓮も昔は可愛かったのに」
「その言葉、そっくりそのままお返ししますよ」
「何でこんなにひねくれちゃったのかね」