「…この前は追い出してごめん」


静かな空気をやぶったのは柏木先輩。


何も言えない私に気を使ってくれたのだろう。


「い、え…」


言うんだ。

逃げたら、だめ。



「か、柏木先輩と、ヨウくん…なにがあったんですか?」


「ん?ふふ、やっぱそれだよね~」


分かりきったように、笑う柏木先輩。



そして、自分のピアスを少しいじりながら、


「言ってもいいけど、琴羽ちゃんが困るだけなんだけど」

と、言った。




ごくり。



「…大丈夫、ですから。」


顔があげれない。


こわい。


私、どうしてこんなことしてるんだろう。


スル、と冷たい手が頬に伸びてくる。


反射的に、ぱっと、顔を避ける。



「はは、…あからさまに避けられると、ね」



なんでそんなに苦しそうな顔するの…。


あのときのヨウくんに似ていて。


それでいて、もっと、いろんな感情がまざったような、苦しい顔。



「琴羽ちゃん、俺はね───」

ぐ、と肩をつかまれる。


はなせ、ない…。


だめ、

本能が逃げろ、って、言ってる。



「はぁ、ほんと押し強いわ、お前」

よく知る声が、

私の肩にのった手をはらった。