ヨウくんは続ける。


「春姫が帰ったあと、服に春姫の匂いが残ってて。…俺、ことが好きなのに、何してんだろ、って罪悪感でいっぱいになった。帰るとき、たまたまことがいて。…何もかも忘れたくて、春姫の匂いをとりたくて、ことに触れたくて抱きしめた。…っ、はぁ、ごめん、俺最低だ…。」


ヨウくんの、匂いはいつも通りだった。

ふわふわとした、石鹸の香り。


「…私、は、大樹がまだ好きです…、二人が別れたんならなおさら、大樹が、…」


自分で話してる、よね?

でも口が動かない。

大樹が好き、…?

本当に…?


涙がこぼれる。

「ヨウ、くんっ…ふっ…私には、いろんなことがっ…ありすぎてもう、…っ、むりです…ぅっく…」

「こと…!」

ヨウくんは、私を引き寄せて、

すこし、止めた。


「涙ふきたいし、抱きしめたいけど今の俺にはそんな資格はない、よ、…ごめん。」

ブンブンと首をふる。


「俺はことが好き。……ことは、大樹くんが好き。それでいいから、そのままでいいから、やっぱり、…少しだけぎゅってさせて。…最後だから。」

ヨウくんは、今度こそ、

私を引き寄せた。


涙がとまらない。


すん、っと、石鹸の香りが鼻をくすぐる。

かすかに、

優しいお花の香りがしたような気がした。



これが、春姫先輩の匂い、かな。


そう思うとなんだか苦しくて。


私は強く、ヨウくんの胸に顔をうずめた。